五指執筆法
2008.09.13 Saturday | category:その他

日本の書道家の筆の持ち方と、中国の書法家の筆の持ち方には大きな違いがある。中国の書法家の筆の持ち方(執筆法)はいわゆる五指執筆法であり、写真のように(あまり写りは良く無いが)筆管を垂直に立て、5本の指で筆管を支える。
これに対して日本の大半の書道家は3本の指で筆を支える。鉛筆などの持ち方と同じである。自然と筆管が斜めになり、幾分側鋒気味の持ち方となる。
私は高校生の頃まで、日本のある書道会の末端の教室で書道を習っていたが、なぜかこの書道会では日本の書道教室には珍しく「五指執筆法」を教えていた。日本でも日下部鳴鶴や中林悟竹など、明治時代初期の書道家は、楊守敬の影響で五指執筆法をマスターしていたというが、あるいはその影響だったのかもしれない。
学生の頃、所属していた書道部は中国書法を基礎としており、新入生にはまず五指執筆法を教え込む。私のように、日本の書道教室で習っていながら五指執筆法を習っていたという例は珍しいらしく、前後に例がないそうである。(私にしてみれば近所の書道教室に通っていただけであるが。)
というわけで、比較的スムーズに中国書法の世界に入ることが出来たのである。
五指執筆法といっても、極めて習得が困難なというわけではなく、後輩達にも散々教えたが、多少不器用であっても、半年もすればとりあえずの基礎は固まるものである。
五指執筆法の合理的なところは、筆管が垂直に立ち、5本の指、特に人差し指と親指、中指と薬指は相呼応し、しっかりと筆管を握れること、また筆管の回転が用意で、複雑な線の変化に対応できる点である。
自然と筆管が垂直に立つことで、全ての毫毛が紙面に対して縦の力として働く。その結果、筆の弾性が十二分に発揮され、力強い線質が発揮できるのである。
さらには、この持ち方は筆にとっても良い。自然と中鋒になるため、毫毛は縦に湾曲されるだけであり、1本の毛をその長さにそって曲げるだけであるから、毛の物性にとって自然であり、毛が切れることは少ない。
しかし日本の書道のように、3本の指で持つと自然と筆管は寝かせ気味になり、いわゆる偏法になる。偏法でもって筆管を寝かせて、腹の部分でこするように書くと、どうしても筆の毫毛が横向きにねじれてしまい、切れやすくなる。切れることによって筆の磨耗が激しくなる。
日本で主流の偏法を一概に否定するものではないが、良い筆を使うときは要注意である。
日本の古い筆に状態の良い筆が少ないのは、ひとつには硯が悪く、筆を痛めている場合、和墨の膠がキツく、毛が痛んでいる場合、そしてこの偏法による毛のダメージが大きいと思われる。
蘇軾などは、偏法を用いて成功した例であるといわれるが、かなり例外的な存在であるといえるだろう。